藤野2号だたら (1998.12.27)


 夕方になって、今日初めての見学者の1人が炎の変化に気づく。途中から炭の落ちるスピードが極端に悪くなる。調べてみると羽口がつまりかけている。ノロが思ったより多く羽口を詰まらせているのだ。羽口の高さはこれ以上上げられない。あと煉瓦1枚分の厚みだがどうにもならない。炉作りの時の煉瓦の積み方が悔やまれる。
 
 炭は相変わらず非常にゆっくりと落ちて行く。それがゆっくり過ぎるのだ。ひょっとして、途中で変なところに固まりができる「たなつり」かと思い、鉄棒でつっつくがそうではないようだ。後でNさんに、このころに私の顔がだんだんこわばってきたのに気が付いたと言われた。でも、私はもっと早くから顔も心も強ばっていたのだ! こんな変な所に煉瓦があって、ノロを出せない!とか、こんな変な所に大穴を開けてノロだし口を作ったら炉底が冷えてしまう!とか、冷えた土をこんなに穴ボコに突っ込んだらダメ!とか、ノロが詰まっているからと諦めたらダメ!さっさと貫通させなくては!ぐずぐずするな!とかね・・・。
 あるていど炭が落ちたところでやっと煙突をはずす。ものすごい熱気がみんなを襲うが、燃えている炭を取りのぞき炉の解体にうつる。精神を集中させているのであまり熱さは感じない。慎重に1つずつ煉瓦をはずしていくと、やがて30センチほどの大きなノロの固まりが姿を現す。真ん中はまだグツグツと音がしている。しばらく待ってノロの固まりをシャベルで掘り出し水場に運ぶ。水をかけ冷ましたところでハンマーで固まりを砕く。しかし・・・、どんどん小さな固まりになって行く。
 最終的にはわずかな鉄と海綿鉄らしきものが約2kgしかなかった。全員、がっくり。この1か月の作業の成果がこんなだったとは。この日の作業が終わった後は、どっと疲労感に襲われた。明らかに失敗だった。
 共同作業をしているとみんなの性格が露わになってくる。・・・・・
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<反省>
 藤野1号と今回の2号の違いがどこにあるかというと、実は炉の作り方を変えたのです。始めから2本羽口に設計したのです。私たちドシロウトがやるには後にしてわかると高等技術だったのです。1回目の炉作りは尾上さんから全て電話で聞いて、その通り作ったのです。ただし、外壁の土の厚さが厚すぎて湿気が抜けなかったので、今回は薄くしました。また、炉の乾燥なども前回に比べてとても気を使ったので、ひどいひび割れもなくうまくいったのです。なぜ、2本羽口にしたかと言うと、第2回たたらサミットの時に大野師匠に話を聞いて自分たちの能力を省みないで気軽にやってしまったのが悪かったのです。
 完全に頭の中は尾上さんのアドバイスを忘れていたのです。「シロウトは1本羽口でやれ。同じ条件で2度やらないと失敗や成功の要因が見えて来ない。1回目にうまくできたからと言って、大体、2回目に気を抜いて失敗する」こう、尾上さんは言っていたのですが・・・。

 B君が途中で「これは難産になるかもね。しかも死産だったりしてね」と笑っていたので、私も思わず必死になっているNさんをかまわず大笑いをしていましたが、見事、予想は当たりました。

 まあ、今回のことは良き反省材料にしましょう。今回もうまくできたら「なあんだ簡単だ」で終わってしまったかもしれません。とにかく次回また試みましょう。
 失敗操業の後に尾上さんへ電話をしていて「いったい、どういう炉の作り方をしたのか? 前回と今回は何がそんなに違うのか?」と聞かれ、炉作りにさい配を振るったNさんが、がっかりしているのを前にして私もその時は説明ができませんでした。でも、尾上さんは操業の日には1日中自宅待機して、黒鉄会の「たたら何でも電話相談室」の対応をしてもらったので、改めてお礼を言い、ちゃんと説明しなくてはと思い、次の日にもう1度電話をしておきました。
「いやあ、そんな羽口の作り方をしたとは思っていなかったから、今回は良いケラができて、次にはこのケラで鍛冶仕事をどうしようかと相談を受けるのではと思っていたら、そんな状況だったのか。まあ、次は今回のことをいかして頑張って」と言われました。


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