丸石クラブはこうやってできた

「丸石にめざめた日」

5、丸石クラブ誕生
 「いつまでバカしゃべってんだよ」
「ねえ、本当に、これって結構、おもしろいと思わない。まじめにさ〜?」
「僕たち地質屋は形はほとんど興味がないし、形で価値をつけて石を高いお金で売買するのになんてくだらないと思っていたけど、確かにこの丸い石は言われてみるとおもしろいね」
「でしょう? 誰もこのおもしろさに気がつかなかったのかなあ? それまで誰も価値をおいていなかったものに価値や美意識を見いだすのはまさに前衛芸術たるゆえんだよ」
「僕は芸術とは無縁だけど、おもしろいよね」
「それじゃあ、きょうからSを<丸石鑑定家>と呼んであげよう。丸石鑑定家のS氏デビューの記念すべき日だ」
「やめてくれよな」
「人は専門家の鑑定によって満足するから、どうしても鑑定家は必要なんだよ。いいじゃない、これで一般の人たちにも岩石に関心をもってもらえるかもしれないよ」
「勝手にしろよ」
「これって、人に話したら乗って来る人いると思わない? 例えばMさんとか・・・。顔もどっちかというと丸いし、性格も丸いし・・・、それからTさんとかはいつも歩く姿がコロコロしているみたいだし、<丸石クラブ>とか作ったらおもしろがる人、けっこういそうだよ。Hさんだって顔も性格も丸石クラブにぴったりだよ。なあんだ、丸石みたいな人っていっぱいいるじゃない。でも、やっぱり会長はぜったいMさんをおいてないよね」
「なら、見本を持ち帰らなければいけないな」
 それから2人して丸石集めのために海岸をウロウロした。大中小と取り混ぜ、形もいくつかの種類を集めた。私たちがへんてこりんな石を重そうに運んでいるのを、さっきの親切なおじさんは横目で見ていたが、もう声をかけてはこなかった。きっとせっかく教えてあげても甲斐のない奴らだと認識したのだろう。
 これが「丸石にめざめた日」の話しだが、丸石集めばかりに熱中してしまい、すっかり丸石の海岸の写真を撮るのを忘れてしまっていた。
 しかし東京に戻ると、このバカバカしい思いつきはけっこう受けた。もちろんMさんは予想どおり<丸石クラブ>の会長になったとさ。

(終わり)


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