富士火山を知る 4 付録
1. 富士山の生態系
樹林帯を越えた五合目以上は砂礫地が広がり、基本的に植生に乏しい。常に斜面表層が崩れ、安定せず、土壌が発達しにくいためだ。それでも富士山特有の植物もある。たとえばフジアザミやフジハタザオだ。植生が貧困というとは動物も少ないということになる。山中で見かけた大型動物では、南側の登山道を離れた七合目付近でニホンカモシカを一度だけ目撃した。樹林帯の発達する山麓にはニホンジカが多い。林道を車で走っているとしょっちゅう出くわす。最近ますます増えているそうだ。それに伴い、ダニも増えているという。私は一度だけダニにくいつかれた。吉本さんと小御岳付近を調査していた時だが、痛みはないもののふと異物に朝になって気がついた。病院が開く時間まで待ち、切開してダニを取り除いた。ほかの山でも首にダニがくっついていたことがある。どうやら私はダニに好かれるようだ。
須走口5合目のフジアザミ。
富士山に生息するニホンカモシカ。
2. 富士山のゴミ
富士山のゴミ問題は世界遺産登録前から大きく問題視されていた。山小屋の屎尿処理も同様だ。徐々に状況が変わってきたと思うが、樹林帯の中の廃道に乗り捨てられていたり川に落とされていたりする自動車を調査中に何度か見ている。しかし、これらは普通に登山道を歩いている限り、なかなか見つけにくい。
御殿場口登山道北側の標高2000m付近でクライスラー製の乗用車を見つけた。すでに樹林帯を超えた砂礫地帯なので、グーグルマップでも見つけられる。さて、どうしたのだろう。ここまで上ってきて動けなくなったのか・・・。こんな高級車、米軍のものだったのだろうか。
調査中に何台見ただろうか。堰堤の脇、工事用道路(廃道)の奥に捨てられた粗大ゴミ(2009年)。
クライスラー、ここまでがんばって登ってきたのか・・(2008年)。
3. 次の噴火は?
もし、宝永噴火と同様・同規模な噴火がおこれば、東京で数cm、横浜で16cmほど火山灰が積もるだろう。雨が降れば積もった火山灰は水を含んで重くなり、電線・架線などいともたやすく切れるだろう。水源池では濾過装置が効かなくなる。高速道路や鉄道も動かなくなる。火力発電所は大丈夫だろうか。文明が進むと被害の種類が大きく違ってくる。政府・自治体を中心にハザードマップ作成やそれに基づく各種シミュレーションが行われ、そのたびに新聞・雑誌紙面が賑わい、とりたてて根拠のない無責任な言動もないわけではない。
13世紀より前には100年に3回程度の頻度で側噴火がおきて溶岩が流れ出ていた。その後、宝永噴火までの間は古文書に噴火らしき記録はあっても、それに対応する溶岩や火山灰は見つかっていない。500年くらいの後に噴火の形式が変わり、宝永噴火は爆発的だった。それ以降なにもおこらず、300年以上経過している。次にどんな噴火になるか、専門家すら予想できない。しかし、多くの観測装置が設置されている現在、地下のマグマが上昇し始めればそれを観測できるはずなのだが、いつ、どこで、何がおこるか、それがどのくらい前になればわかるのだろうか。約1500年前の雁ノ穴溶岩流の火口などは、住宅地までたった1km の距離しかないのだ。
富士山では1万年に3回程度、大規模な山体崩壊がおきていたと推定されている。富士山の最新の大規模な山体崩壊は御殿場側で2900年前におこったが、1万年に3回程度の大規模な山体崩壊がおきていると考えられている。周期的に発生する東海地震も長いこと警戒されているが、そう遠くはないのだろう。噴火でなくても大地震が発生して山が崩れると、今の形を大きく変える可能性が高い。だが、それらの繰り返しがあってこそ、今の美しい姿となっているのである。