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口之島


 口之島火山は、複数の火山体の集合からなる複合火山である。もっとも古い火山体は、南端部に分布するタナギ山火山体及び北端部のフリイ岳火山体で、いずれの岩質も輝石安山岩である。タナギ山からは約50万年前、フリイ岳からは約30万年前の放射年代が得られており、いずれも中期更新世の火山体である。後期更新世以降、これらの間に少なくとも10個の角閃石安山岩(一部はデイサイト)の溶岩ドームからなる火山体が形成された。これらの火山体は岩相の違いや相互の被覆関係から、おおむね、ウエウラ山火山体、セランマ火山体、横岳火山体、南横岳火山体、北横岳火山体、前岳火山体、ヒキスエ火山体、鎌倉崎火山体、落しの平火山体、の順序で形成された。なお、セランマ火山体、ヒキスエ火山体、鎌倉崎火山体については、その形成時期は明確ではない。

 約4万年前頃、軽石質の大勝火砕流堆積物がウエウラ火山から噴出し、小河内カルデラが形成された。このカルデラの形成後、横岳・南横岳・北横岳の少なくとも3つの溶岩ドームが成長した。複数の火砕流(ブロックアンドアッシュフロー)がこれらの溶岩ドームの形成に伴って発生した。南横岳から噴出した火砕流堆積物からは1.9万年前の放射性炭素年代が得られている。完新世、7,900年前ごろの横岳・南横岳・北横岳の馬蹄形崩壊によって岩屋口岩屑なだれ堆積物が発生し、引き続きこの崩壊地形の内部に前岳火山が成長した。前岳溶岩ドームは約7,300年前の鬼界アカホヤテフラ(K-Ah)に覆われるが、それ以降の溶岩ドームはK-Ahの上位である。落しの平及び燃岳の溶岩ドームが前岳溶岩ドームの南東斜面崩壊後に成長した。燃岳火山は口之島の中で最も新しい溶岩ドームで12-13世紀に形成された。燃岳溶岩ドームの山頂部には直径数10mから100m程度の複数の竪孔状火口や割れ目火口が開口しており、これらは前岳溶岩ドーム上で水蒸気爆発が繰り返し発生したことを示している。最新の水蒸気噴火は18世紀以降の可能性がある。口之島火山には噴火記録はないが、燃岳溶岩ドーム頂部の火口では噴気活動が認められる。

 フリイ岳東の海岸では、隆起サンゴ礁堆積物が300mにわたって分布する。口之島南西部ではセランマ温泉が自然湧出しており、保養施設として利用されている。泉温は約70℃、火山起源の石こう泉主体である。そのほか、港付近の西之浜や東海岸の戸尻で温泉の湧出が知られているが、2006年時点では利用されていない。口之島では、かつて硫黄の採掘が行われていた。燃岳溶岩ドーム山頂の北斜面付近で採掘されたらしいが、詳細は不明である。

 

 

引用文献

斎藤ほか(1971)、田口・塚田(1972)、大四ほか(1989)、中尾・古山(2003)、奥野ほか(2004)、松本ほか(2006)、小林・棚瀬(2008)

下司・中野(2007)鹿児島県トカラ列島口之島火山の形成史と噴火活動履歴。地調研報、vol. 58、p. 105-116.

 

 

口之島火山の地質図。下司・中野(2007)を修正。
最北端のフリイ岳。

 

小河内カルデラ壁の南面。

 

グノメ崎。

 

セランマ南の崩壊地形(2006.5.25)。

 

鎌倉崎の南。貫入した溶岩ドーム。

 

鎌倉崎溶岩ドームの貫入面。

 

噴気を上げる燃岳の山頂火口。


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