乗 鞍 岳

2001年4月公開、2020年4月追記 

 秋,夕暮れの乗鞍岳

 2016-17年に行われた調査によると、過去1万年間の噴火は権現池火口周辺に限られることがわかってきました。新しいとされた恵比須火口の最後の噴火は2万年前より古いようです。ここ1万年では、権現池火口では少なくともマグマ噴火が2回、水蒸気噴火が10回発生しており、火砕流も発生していました。最新の噴火は約500年前の水蒸気噴火です。詳細は近いうちに公表されるでしょう。

 乗鞍火山は北アルプスの南部にあります.気象庁ではこの火山を活火山としていますが,有史時代の噴火記録はありません.日本の火山としては富士山,木曽御嶽山に次ぐ高さ(3,026m)がありますが,標高2,700mまで自動車道路が通じていて,わが国でもっとも楽に登れる3,000m峰です.最高峰の剣ヶ峰は,日本海と太平洋を分ける分水嶺としては日本一の高さです.
 乗鞍には多くの池があるのも特徴でしょう.山頂部には権現池・五ノ池・亀ヶ池・鶴ヶ池・不消ヶ池,少し下った西斜面には大丹生池・土樋池,それから東の麓,乗鞍高原にも大曲池や牛留池などいくつかあります.高山湖の成因にはいろいろありますが,乗鞍は火山ですので,あるものは火口湖だったり,溶岩によるせき止め湖だったりします.
 この火山は繰り返し流れ出た溶岩の積み重なりから成り立っていますが,高速で山の斜面を流れ下る火砕流はほとんど発生しなかったようです.火山体の底は上げ底になっており,火山の本当の厚さは一番厚いところでも数百mしかありません.すでに山ができて高くなっていたところに火山が生まれてきたのでしょうか.それとも,マグマが地下から上昇してきて山を持ち上げたのでしょうか.

畳平の駐車場(標高2,700m)ここまで一般車両が入る.後方は2-3万年前にできた恵比須火口丘.右は鶴ヶ池.



地質図について


乗鞍火山の地質図(部分)5万分の1地質図幅「乗鞍岳」(中野ほか,1995) 

 地質図では,流れ出た溶岩の性質やその噴出地点,噴出時期などから,乗鞍火山をいくつかの火山体に細かく区分しました.ところがその後,K-Ar法によりいくつかの溶岩の年代を測定してみたところ,南部の千町火山体は86万年より古く,そのうち最も古いものは128万年前,北部の烏帽子火山体は32万〜12万年前,そのほかの新しい火山体は10万年前から現在に至るまでの火山活動によりできたことが明らかになってきたのです.意外だったのは,千町火山体があまりにも古かったことと,次に活動した烏帽子火山体との間に60万年近くの長い活動休止期間が見つかったことです.一般に,複成(成層)火山の寿命はたかだか数十万年と考えられていますから,乗鞍火山は“古期乗鞍火山”と“新期乗鞍火山”のまったく別の2つの火山とみなすべきでしょう.

 古期乗鞍火山は,現在の権現池付近を中心にほぼ円錐形をしていました.火山活動が終わると,火山体の北半分(千町尾根の北側)と南東部(県境尾根の南西側)で大規模な山くずれ(?)が起こり,今ではこの火山体は半分しか残っていません.
 新期乗鞍火山は,古い火山体(烏帽子)と新しい火山体(四ッ岳,恵比須,権現池・高天ヶ原)からできています.噴火口は何ヶ所もありましたがほぼ南北方向に並んでいるため,東や西から眺めると乗鞍岳はゆるやかに波打った姿をしているのです(それが名前の由来です).烏帽子火山体は,山くずれや激しい谷頭浸食により,すでにその3分の1が削られてしまいました.山頂部の東側,特に位ヶ原では,わずかですが降り積もった火山灰・スコリア層が見られます.その中に挟まれていた木片の年代測定から,いちばん最近の溶岩は約9000年前に権現池火口から流れ出たことがわかっています.その後は現在に至るまで小規模な水蒸気爆発が繰り返しおこっているだけのようです.

中野ほか(1996,地質ニュース,no.498)に基づく.

冬の朝焼け


乗鞍火山の形成史,地質について少し詳しく解説します.


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