“たたら”と岩石 (1999年11月)
− 地球科学の分野から (岩石学・鉱物学・鉱床学など)− 古来より日本に伝わる“たたら”製鉄では,その原料として主に砂鉄を用いていました.砂鉄を用いる場合,川にたまった砂鉄(川砂鉄)を採ったり,風化した花崗岩を崩してその中に含まれる磁鉄鉱粒を選別したりして使っていたようです.つぶつぶになっていない磁鉄鉱などの塊,“岩鉄”を使うこともありました.一般に,“砂鉄”や“岩鉄”は,鉄に酸素がくっついたもの(酸化鉄)です.これから酸素を取り除いて(還元して),金属鉄にします.
現代製鉄では,縞状鉄鉱(Banded Iron Ore)を原料とすることが多いのですが,これは主に赤鉄鉱を中心としています.ただし,これは日本にはありませんので,すべて輸入しています.製鉄原料としては,そのほかにもいろいろな種類の鉄鉱石が利用されてきています.たとえば,秩父鉱山や釜石鉱山の鉄鉱石は,主に塊状の磁鉄鉱(Magnetite)でした.和賀仙人鉱山では赤鉄鉱(Hematite)でした.また,第2次大戦の戦中戦後の資源枯渇時には,褐鉄鉱(Limonite;これはGoethiteという鉱物の集合体です)の採鉱もさかんにおこなわれています.群馬鉄山や諏訪鉄山はその代表でしょうか.しかし,よく目にする黄鉄鉱(Pyrite)は,鉄資源としてはあまり有用ではなかったようです.
このような鉄を含む鉱物はどのようにできたのでしょうか.また,鉄を含んだ鉱物はどのように濃集して鉱床になったのでしょうか.地球は45-6億年前,“隕石”が寄せ集まってできました.隕石には隕鉄が含まれていますが,これは鉄とニッケルの合金です.しかし,われわれが普段使っている鉄にはニッケルは含まれていません.なぜでしょうか.このような,鉄に関わるさまざまな疑問 − “隕石”が集まって地球が生まれ,その後どのようなことがおこって縞状鉄鉱層ができたり,磁鉄鉱になったり,褐鉄鉱になったり,黄鉄鉱になったり・・.鉄を含むいろいろな鉱物が,そして,いろいろな成因の鉄鉱床ができるのはなぜでしょうか.
砂鉄の場合でも単純ではありません.花崗岩に含まれる磁鉄鉱にはチタン成分が少ないのに,安山岩に含まれる磁鉄鉱にはチタン成分が多かったり,また,リンや硫黄分を含んだり・・・いろいろです.磁鉄鉱をまったく含まない花崗岩もあります.少量ですが,チタン鉄鉱(イルメナイト)も含まれます.何が原因でこうなるのでしょうか.古来からのたたら製鉄といえども,砂鉄ならばなんでもよい,というわけではないようです.山砂鉄,海砂鉄,川砂鉄という区別をすることがありますが,なんとなくどういう意味かは想像がつきますね.また,真砂(まさ)砂鉄と赤目(あこめ)砂鉄の区別がありますが,これは何が違うのでしょうか.学者や実際にたたらをおこなっている人でも,人によって言うことが異なっています.なお,風化した花崗岩を“真砂”と地質屋さんはいっていますが,たたら屋さんのいう“真砂”とは意味が違うようですね.(未完)