地形の特徴

乗鞍岳の山頂分布図(中野ほか,1995)
剣ヶ峰を最高峰に,標高2,500m以上の多数のピークを持つ.

 乗鞍火山には標高2,500m以上の多くのピークがあり,南北に延びた主稜線を中心として放射谷が発達している.乗鞍岳全体としては南北に連なった主稜線を形成しているが,それは火口が南北方向に配列しているためである.火山体のうち浸食の及んでいない部分は比較的なだらかな山容を示し,位ヶ原や桔梗ヶ原などの溶岩流からなる緩傾斜地が広がっている.また,東麓の乗鞍高原,鈴蘭から中平にかけては溶岩流が谷を埋めた平坦面であり,西麓の岩井谷と蛇出谷の合流点付近にも溶岩流からなる平坦面が広がっている.

番所溶岩からなる乗鞍高原
基盤岩の深い谷を埋めた厚い溶岩流の平坦面が右手前から左奥へ続く.ここで利用されている乗鞍高原温泉は,左側の尾根をトンネルで貫き,白骨温泉の上流から引湯されている.

 乗鞍岳の主稜線を中心に分布する新期の火山噴出物には,溶岩流に特徴的な表面地形,例えば,溶岩じわや溶岩堤防が明瞭に認められることがある.これらの噴出中心には,明瞭な火山地形として権現池火口と恵比須火口,そして四ッ岳溶岩ドームがある.また,古期の噴出物でも溶岩流原面に近いと思われる面が保存されている部分があるが,それらの噴出火口は新しい噴出物に覆われたり崩壊によって失われており,現在ではその正確な位置を知ることができない.
 北アルプスの隆起作用は少なくとも第四紀に入ってからも著しいと考えられており,それに伴い河川の浸食作用や火山体の崩壊も顕著である.乗鞍火山では,大丹生岳東の湯川上流域で基盤岩が標高2,400mまで露出しているが,かつてはこの流域も広く火山噴出物に覆われていたはずである.そのほか,里見岳,烏帽子岳や十石山なども北−西面が急峻な地形となっており,大規模な山体崩壊が発生したのか,小規模な崩壊が繰り返しおこっていたのかのいずれかであろう.これらは,かつてはカルデラ地形または火口壁とも考えられていた(神津,1911).また,東西に延びる千町尾根は,その地形的な南北非対称性から,その北面はかつての崩落崖であったことがうかがえる.

 

  

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