乗鞍火山の形成史 |
乗鞍火山は複数の火山が集合した複合火山であり,正確に表現するならば乗鞍火山群と称するべきかもしれない.乗鞍火山を千町火山体,烏帽子火山体,四ッ岳火山体,恵比須火山体,権現池・高天ヶ原火山体の5つに区分する.乗鞍火山は安山岩およびデイサイト質の厚い溶岩流を主体としており,火砕流や降下火山灰などの火砕物が少ない特徴がある.噴出した溶岩は標高3,000m以上から山麓の末端では標高1,100m以下まで分布しているが,基盤が盛り上がった上げ底型の構造になっており,火山体中心部における火山噴出物の厚さは高々600-700m程度である.現存する体積は約21立方kmであるが,噴出物の総体積は最大約43立方kmと見積もった.なお,これを含め,以下に示す噴出物量は中野ほか(1995)の値とは大きく異なる.中野ほか(1995)は噴出物の体積を過小に見積もっており,それは最小量とみなしてよい.
乗鞍火山の活動期は次のようである.千町火山体では,最下部に128−125万年前に活動した噴出物(千町北溶岩,黍生溶岩・火砕岩)がわずかに認められるが,主な活動期は92−86万年前であり,火山体の大部分は短期間に形成されたらしい.烏帽子火山体は32万年前から12万年前にかけて成長した.四ッ岳火山体は約4万年前,恵比須火山体は約2万年前に形成された.権現池・高天ヶ原火山体が形成されたのは10万年前以降で,現在の姿になったのはほぼ9000年前のことである.千町火山体と次に活動した烏帽子火山体との間に60万年近くの長い活動休止期間が存在する.一般に,複成(成層)火山の寿命は高々数十万年であることから,乗鞍火山は“古期乗鞍火山”と“新期乗鞍火山”の新旧2つの火山とみなすべきであろう.
乗鞍火山の火山体区分(中野・宇都,1995) 古期乗鞍火山(1:千町火山体)と新期乗鞍火山(2:烏帽子火山体,3:四ッ岳火山体,4:恵比須火山体,5:権現池・高天ヶ原火山体)に区分できる. |