白馬大池火山の形成史
白馬大池火山は北アルプス(飛騨山脈)北部に位置する第四紀に活動した火山です.最高地点は標高2,469mです.北アルプス上には,立山火山,鷲羽・雲ノ平火山,焼岳火山,乗鞍火山など,総称して乗鞍火山列と呼ばれる安山岩質の複成火山がいくつか点在しています.地理的には,北アルプス上に南北配列する乗鞍火山列よりも東方にずれ,妙高火山群に近い位置にありますが,一般には乗鞍火山列に含めて扱われます.これは,岩石学的特徴が乗鞍火山列のものと共通することにもよります.
白馬大池火山噴出物は更新世に活動した白馬大池火山の噴出物であり,旧期噴出物と新期噴出物に大別されます.前者は約80万-50万年前(前期更新世の末期~中期更新世の前期)の噴出物,後者は20万年前よりも新しい時代(中期更新世の後期~後期更新世)の噴出物です.白馬大池火山噴出物の体積は,現存するもので約9.2立方km,侵食で失われた部分を復元しても15立方km以下です.
白馬大池火山旧期噴出物は下位より稗田山下部溶岩・稗田山上部溶岩・乗鞍沢溶岩・蒲原山溶岩に区分されます.旧期噴出物に関しては山体の開析が著しく,もとの山体を復元することが困難でして,また,噴出中心も不明です.一部は未確定ですが,旧期噴出物のうちの下位(稗田山上部・下部溶岩)は80-70万年前,上位の乗鞍沢溶岩と蒲原山溶岩は60-50万年前で,その間に休止期があった可能性があります.
白馬大池火山新期噴出物は下位より乗鞍岳溶岩・箙岳溶岩・風吹岳溶岩・風吹岳火砕流堆積物に区分されます.活動の中心は2ヶ所ありました.最初の乗鞍岳溶岩は,正確な噴出中心は不明ですが,現在の乗鞍岳からさほど遠くない地点から噴出したと推定されます.箙岳溶岩は,北東に開いた直径約2kmの馬蹄形カルデラの外輪山を構成し,その内側に分布する風吹岳溶岩・火砕流堆積物は,溶岩ドーム及びその形成・崩壊に伴う堆積物です.これらの噴出地点はいずれも現在の風吹岳を中心とする地点です.乗鞍岳溶岩は約17万年前,箙岳溶岩は約7万年前に噴出しており,両者の間には約10万年間の休止期があった可能性もあります.
上の図は各溶岩の層序関係を示す.数字は年代値で,単位(Ma)は100万年.中野ほか(2002)の第54図.
上の図は白馬大池火山の地質図.
中野ほか(2002)の第53図に基づく.噴出物ごとに色分けしてある.
古い順に,Vh1:稗田山下部溶岩 Vh2:稗田山上部溶岩 Vnz:乗鞍沢溶岩 Vg:蒲原山溶岩 Vnd:乗鞍岳溶岩 Ve:箙岳溶岩 Vkd:風吹岳溶岩 Vkp:風吹岳火砕流堆積物 d:崩壊堆積物