山と高原のみずうみ

 2020年3月、某フォーラムにて講演予定でしたが、コロナ禍で延期、延期、そして辞退。
 準備し始めていた予稿集原稿をもとに加筆・修正したものをここに掲載します(2022年1月)。

 

1.日本一を競う

 大地が動いて凹地ができ、やがてそこには雨水や雪解け水がたまります。湧き水や温泉がたまることもあるでしょう。そこが高い山なら高山湖、山の上なら山上湖と呼ぶのでしょうが、ここではまとめて「高山湖」と呼びます。とりあえず山の高さは問いません。

 山や川と同様に、何かの基準で高山湖をランク(順位)付けしてみましょう。例えば、標高日本一の高山湖はどこでしょうか、その場合、猫の額ほどの小さな池はどうしましょう。そこにも一定の基準を設けないといけません。例えば、国土地理院の地形図(地理院地図)に名前があるもの、を原則とするのもよいでしょう。まずはインターネットでいろいろ調べてみました。

 

二ノ池(御嶽山)。右上の一ノ池はすでに干上がっており、幻の日本一? 1997年撮影

 

 
権現池(乗鞍岳)。2016年撮影  

 hirokazさんが作成している「日本湖沼めぐり」というページがあります。ここでは高山湖に限定せず、また人造湖も含め、全国483の湖沼が掲載されており(2022年1月27日確認)、今後も追加されていくと思われます。ここでは特段のランク付けは記されていないようですが、高山湖の網羅度は高そうで、大変参考になりますし、今後の発展が楽しみです。長野県魅力発信ブログ(長野県産業労働部)には、“御嶽山の山頂にある二ノ池(標高2905m)は、日本で最も高い場所にある高山火口湖”と書かれています(2022年1月14日確認)。そして2位、3位も御嶽山の五ノ池(2800m)、三ノ池(2720m)とあります。長野県佐久穂町観光協会によると、八ヶ岳の白駒池(2115m)は“標高2100m以上の湖としては日本最大の天然湖”だそうです(2022年1月14日確認)。また、Pollyさんが開設しているブログ「しぜんfan」(2022年1月14日確認)では中禅寺湖を1位にしようといろいろな除外条件を見つけ(火口湖、人造湖、広さ4平方km未満、「湖」と名が付かない、を除外)、見事に1位に中禅寺湖(1269m)、2位に榛名湖(1084m)を当てはめました。この方は標高だけでなく、大きさや水深でランク付けをするなど、いろいろな試みをしていてじつに興味深いです。こういうことをやってみたくなるのも高山湖の魅力なのでしょう。ただ個人的には、火口湖を除いた点にはまったく“同意”できません。この後で述べますが、中禅寺湖は火山の堰止めにより形成、榛名湖は火口湖ではないですが火山にある湖ですし、、、。長いこと火山に関わっている私としては、いずれ、火山に限ったランク付けをしてみましょう。

 
鷲羽池(鷲羽岳)。1981年撮影(日本の火山データベースより)  

 では、御嶽山が上位を独占しているのは本当でしょうか。そこですぐ北隣の乗鞍岳を地図上で調べてみました。すると、権現池2840-45m、不消ヶ池2730-40m、五ノ池2720-25mでした。ただし、これらを含む多くの標高値は地理院地図の等高線から読み取っており、必ずしも“公認された”標高ではありませんし、豊水期・渇水期によって変化します。
  岐阜県中部山岳国立公園活性化推進協議会のページでは、権現池は“御嶽山の二ノ池に次ぐ日本第2位の標高”という紹介があります。飛騨山脈中では、2700m以上は硯ヶ池(2860-70m、立山別山)、天狗池(2720-25m、白馬鑓ヶ岳南方)と鷲羽池2720-30m(鷲羽岳)がありました。これだけで御嶽山の五ノ池4位に、三ノ池はなんと9位に転落してしまいました(“高山火口湖”と書いていますので三ノ池は5位でしょうか)。なお、1位を保った御嶽山の二ノ池ですが、2014年の御嶽山噴火で周囲に堆積した火山灰が雨で流されて池に流れ込み、その後年々小さくなって消滅の危機にあるようです。また、御嶽山五ノ池の場所には地理院地図で湖沼(水域)が描かれていません。ちなみに、日本で飛騨山脈以外に標高2700mを超える山は赤石山脈、木曽山脈、八ヶ岳と白山だけです。これらで地理院地図上に表現されている湖面標高が2600mを超える湖沼は、木曽山脈の駒飼ノ池(2710-20m、ほぼ消滅に近いらしい)と濃ヶ池(2650-60m)だけでした。ちなみに、赤石山脈では仁田池(にったいけ、2495-2500m)、八ヶ岳では北横岳火口内、血の池(2440-50m、ただし、渇水期には消滅するらしい)、白山では血ノ池(2580-90m)がそれぞれ最高高度の湖沼のようです。

 ダム湖や海に接した汽水湖を含む湖沼556が掲載された『国土数値情報 湖沼データ』(国土交通省)では面積0.01平方kmキロ以下の小さな湖沼もいくつも含まれますが、さてどこまで網羅されているのでしょうか。この湖沼データを標高順に並び替えると、赤石山脈の駒鳥池(2425m)が1位です。しかし、地図上で見る限り駒鳥池よりも何倍も大きい池はいくつもありますが、たとえば権現池(乗鞍岳)はデータに含まれていませんでした。蔵王山の御釜もないようです。数値データの欠落が多く、どうもこのデータは高山湖を目的とした作業にはふさわしくないようです。この先、余裕があれば標高と面積の相関を調べてランク付けするのもおもしろそうです。ただし、データは完璧にはそろっていませんから、自分で調べる、読図することも必要です。もちろん、「みずうみ高きが故に貴からず」です。そんな数値ではなく、実際に各地の「みずうみ」を訪ねてその神秘さ、美しさなどを体感するのがいちばんの魅力です。

 
御釜(蔵王山)。2010年撮影(日本の火山データベースより)  

標高ランク 湖沼名(場所) 湖面標高1 湖面標高2
1 二ノ池(御嶽山、長野県)* 2900-2908m 約2905m
2 硯ヶ池(立山別山、富山県) 2860-2870m -
3 権現池(乗鞍岳、岐阜県)* 2840-2845m 約2840m
4 五ノ池(御嶽山、岐阜県)*、** 2790-2800m 約2790m
5 不消ヶ池(乗鞍岳、岐阜県) 2730-2740m 約2730m
6 鷲羽池(鷲羽岳、長野県)* 2720-2730m 約2730m
7 五ノ池(乗鞍岳、岐阜県) 2720-2725m -
8 天狗池(白馬鑓ヶ岳南方、長野県) 2720-2725m -
9 三ノ池(御嶽山、長野県)* 2710-2720m 約2720m
10 駒飼ノ池(木曽山脈、長野県) 2710-2720m 約2710m

湖面標高1: 地理院地図にて読図。
湖面標高2:日本湖沼めぐり」による。“-”は掲載なし2022年1月現在。
* 火口湖
** 地理院地図に水域が表記されていない(2022年1月現在)。

 


次章(2.高山湖のでき方)

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