20万分 1「長野」地域 地質図           1999年9月

 公表されている論文や地方自治体が発行している郡誌や村誌の地質図など、いろいろな文献をかき集めて編集(コンパイル)した、広い範囲の地質図です。国土地理院発行の20万分の1地形図「長野」の範囲の地質図です。おおよそ、長野市 − 諏訪湖 − 秩父盆地 − 群馬県沼田市を結んだ長方形の範囲です。長野県・群馬県・埼玉県にまたがる、山と高原と山間盆地が広がる南北74km、東西90kmの地域です。

この範囲の主な火山を見る 
浅間山
草津白根山
榛名山
八ヶ岳

 以下の紹介文は、地質ニュースno.533(1999年1月号)掲載の記事(中野ほか、1999)に基づいています。

 ここは本州のまんなかです.島崎藤村の「千曲川旅情のうた」“小諸なる古城のほとり・・・”・懐古園のある小諸,そして国際的別荘地といわれる軽井沢を中心にした,山と高原と山間盆地が広がる南北74km東西90kmの地域です.でも,ご存じですか?,軽井沢も小諸懐古園も日本を代表する活火山のひとつ浅間山の麓にあり,かつての大噴火でできあがった場所にあることを.そういえばこの「長野」地域,私たちの祖先にもいろいろなことがありました.古くは縄文時代,和田峠周辺の黒曜石(黒耀岩)は石器の原料として広く各地に流通していました.戦国時代,武田信玄・上杉謙信の川中島の古戦場(本当は戦わなかった?),ごく最近では,幻の松代大本営,御巣鷹山の日航ジャンボ機墜落・・・.でも,地質図に描かれているのは,もっと大昔から続いている大地のいとなみです.ここは,ナウマン象に名前を残す明治時代のドイツ人地質学者,ナウマン博士が名付けた“フォッサマグナ”地域のほぼ中央部に位置しています.フォッサマグナとは“大きな溝”,つまり大地溝帯という意味です.

 フォッサマグナは本州中央部を南北に横断していますが,その西側の縁は糸魚川-静岡構造線(糸静線)という名前の大断層です.それに対し,東側の縁はどこなのか,定説がありません.糸静線は日本海側の糸魚川市から南下して塩尻市へ,そこで南東に向きを変えて諏訪湖を通り韮崎市に達し,再び南下して太平洋側の静岡市へと続いています.この断層の西側に北アルプスや南アルプスがそびえています.最近の研究によれば,この断層は北米プレートとユーラシアプレートの接するプレート境界であると考えられています.

 大昔,日本海はありませんでした.大陸が割れて日本海ができつつある頃のおよそ1,700-1,800万年前(中新世のはじめ),“フォッサマグナ”が形成され始めました.それより古い時代の岩石は関東山地に広く分布していて,主に古生代から中生代の地層ですが,秩父帯・三波川帯・跡倉ナップなどと分けられています.なんだかむずかしいですが,白亜紀に恐竜が棲んでいた山中(さんちゅう)地溝帯と呼ばれるところもあります.また,諏訪湖周辺にも古い岩石が見られます.これらの古い岩石からできていた山地を割って“フォッサマグナ”地溝が形成され,海が侵入しました.そこでは中新世から更新世までの堆積岩や火山岩の地層が厚さ3,000-4,000mも堆積しています.

 フォッサマグナ地域にはたくさんの火山があります.「長野」地域に含まれる代表的なものは,1783年の天明の大噴火で知られる浅間山(その時に鬼押出溶岩が流れました),そして,草津温泉や万座温泉をかかえる草津白根山でしょう.どちらも日本を代表する活火山ですが,浅間山では山頂付近は立入禁止であるのに対し,草津白根山では山頂火口の縁までたくさんの観光客が押し寄せています.また,榛名山も6世紀に大きな噴火をしています.この地域にはそのほかにも八ヶ岳(北八ヶ岳)や四阿山などの火山があります.そういえば, 松代群発地震がおこった皆神山も小さな火山ですね.

 また,この地域にもいくつかの鉱山がありました.鉄や亜鉛などを採っていた秩父鉱山が代表格でしょう.かつて平賀源内も金鉱を探し歩いたそうです.また,佐久の茂来山(大日向鉱山)は天然磁石が採れたことで有名です.フォッサマグナにたまった地層から粘土を採取している場所もあります. 火山には褐鉄鉱の鉱山がありました.草津白根山の群馬鉄山と八ヶ岳の諏訪鉄山です.また,草津白根山や四阿山の周辺では大規模に硫黄を採っていた鉱山が何ヶ所もあります.これらの鉱山は今ではほとんど閉山してしまいました.今でもさかんに採掘されているものは,諏訪や佐久地方の“鉄平石”(板状に割れる安山岩溶岩)や関東山地の石灰石ぐらいでしょうか.諏訪湖の北の和田峠付近では黒曜石を採っていますが,もちろん石器を作っているわけではありません.陶器の原料のほか,断熱材・吸音壁に利用されるパーライトの原料などとして利用されているようです.

 火山が多い地域ですから,温泉もたくさんあります.硫黄や褐鉄鉱ができているのも温泉と無縁ではありません.諏訪湖周辺から八ヶ岳にかけての地域には日本一の間欠泉や武田信玄の隠し湯をはじめ,たくさんの温泉が湧いています.また,自噴量日本一で恋の病以外何にでも効く草津温泉,通年営業としては標高日本一という万座温泉だけでなく,“信州の鎌倉”別所温泉,信州一の歓楽街?戸倉上山田温泉,温泉利用の健康作りをめざす鹿教湯温泉,竹久夢二が愛した石段街の伊香保温泉なども知名度があります.そのほか,「雪山賛歌」(雪よ、岩よ、我らが・・)の鹿沢温泉,標高日本一の野天風呂(本沢温泉),そして,ランプの湯(高峰温泉)や洞窟風呂(仙仁温泉)などもいかがでしょうか.



Back