トカラ列島 (2009年2月)
トカラの島々を含む20万分の1地質図を作成しました。2008年に出版された「中之島及び宝島」です。この地質図は全域を実地調査して作成したものではなく、既存の論文のデータをコンパイルし、一部はそれを補うための現地調査結果に基づくものです。2004年から2006年にかけて3回、現地を訪れました。1年目は宝島、2年目と3年目は口之島に滞在し、天候をみはからって船で近くの島を回りました。宝島では“はなみ丸(前田功一船長)”、口之島では“黒潮丸(肥後栄男船長)”にお世話になりました。絶妙な瀬渡しをお願いしたり、カヤックやゴムボートも使用して上陸しました。
トカラ列島、第四紀火山の活動期。LD:溶岩ドーム、DAD:岩屑なだれ堆積物。淡緑色は安山岩質、ピンク色はデイサイト質。
K-Ah;鬼界カルデラ起源の鬼界アカホヤ火山灰、AT:姶良カルデラ期源の姶良(あいら)丹沢火山灰、K-Tz:鬼界カルデラ起源の鬼界葛原(とづらはら)火山灰。ATやK-Tzの名称のもとになった地名(丹沢、葛原)はいずれも神奈川県西部。
地質図の範囲は、口之島から横当島までのトカラ列島。国土地理院発行の1/20万地勢図の範囲には奄美大島北東の岩礁、サンドン岩を含むが、地勢図上にはなぜか表記がなく、その存在になかなか気がつかなかった。なお、トカラ列島は東シナ海か太平洋か、それともその境界なのか、書物によって異なったことが書かれていることがあります。海上保安庁によると、種子島(屋久島の東)の南端と喜界島(奄美大島の東)を結んだ線が両者の境界、と決められているそうで、したがってトカラ列島は東シナ海に浮かぶ島々ということになります。
10個余りの島々から構成されるトカラ列島は、東をフィリピン海プレートが沈み込む水深6,000-7,800 mの琉球海溝に位置し、西を水深1,000-2,000 mの沖縄トラフ(舟状海盆)に挟まれた、水深1,000 m以浅の琉球弧上にある。トカラ列島を構成する島々のうち、臥蛇島・小臥蛇島・平島を除く島々がほぼ北東-南西方向の直線上に点在し、北東は口永良部島へ、そして南西は硫黄鳥島へ続く第四紀の火山フロントと一致している。臥蛇島・小臥蛇島・平島の3島はその西の背弧側(沖縄トラフ側)に位置する。陸地面積としては活火山を含む中之島が最も広く約34.5平方km、大きさ約9.5×4 kmである。標高としては中之島の御岳が979 mで最も高い。次いで、やはり活火山である諏訪之瀬島が面積約27.7平方km、大きさ約8.5×5 kmであり、標高も諏訪之瀬島御岳の799 mが中之島御岳に次いで高い。そのほかの後期更新世-完新世の火山体を含む島々では、口之島前岳628 m、臥蛇島御岳497 m、悪石島御岳584 m、上ノ根島280 m、横当島495 m、小臥蛇島301 m、中期更新世以前の平島御岳243 m、小宝島102 m、小宝小島56 m、宝島292 mであり、新しい火山島ほど陸地面積に比べ標高が高い傾向がある。
トカラ列島を構成する多くの島々は水深800-500 mの平坦面上に突出した高まりであり、その大部分は水面下にある。例えば、諏訪之瀬島では海面上の体積は6.4立方kmであるが、水深500 mからを火山体とするとその体積は60立方kmとも見積もられている。これらの島々以外にもカッパ曽根(水深177 m)、濁り曽根(水深135 m)などの高まりが火山フロント上に、サンゴ曽根(水深91 m)や権曽根(水深69 m)などの高まりが火山フロントの背弧側に分布している。これらの多くが火山体である可能性があるが、宝島・小宝島は第四紀より古く、そして口之島北東のトカラ平瀬が鮮新世であるように、第四紀火山以外の高まりも存在すると考えられる。なお、横当島周辺には直径約7×10 kmの海底カルデラが推定されている。
トカラ列島に属する多くの火山島は、急峻な海食崖に囲まれることが多い。第四紀火山島のうち、臥蛇島、小臥蛇島、上ノ根島などは単一の成層火山体あるいは溶岩ドームが主体と考えられるが、それ以外は複数の成層火山や溶岩ドームが接合した複合火山となっている。複合火山の成長途上で大規模崩壊を繰り返すことが多く、顕著な崩落崖(一部はカルデラ)が形成されている場合がある。口之島、中之島及び悪石島では北西-南東方向に新旧の火山体が配列している。それに対し、諏訪之瀬島は北東-南西方向に配列する。後カルデラ火山である横当島では2つの成層火山体が東西に接合する。
トカラ列島の中でも、宝島・小宝島及び小宝小島は周囲を隆起サンゴ礁に囲まれ、海岸付近に標高10 m以下の平坦面が広がり、第四紀よりも古い火山岩から構成小宝小島では豊富な温泉が湧き出す。第四紀の火山島とは明らかに異なる地形を示している。トカラ列島の島々は、一部を除いて中期更新世以降の第四紀火山島である。これらのうち、口之島、中之島、諏訪之瀬島の3島は活火山として認定されており、とりわけ諏訪之瀬島は活動度が高く、現在でも活発に噴火活動が起こっている。臥蛇島及び平島は中期更新世の、小臥蛇島及び悪石島は後期更新世の火山である。最南端の横当島及び上ノ根島は、直径約7×10kmの海底カルデラの後カルデラ火山である。その活動年代を決定する資料は得られていないが、後期更新世ないし完新世にかけて活動した火山であると推定される。小宝島・小宝小島及び宝島は中新世と推定される火山岩から構成され、中期更新世の琉球層群(礁石灰岩や砕屑物)や完新世の隆起サンゴ礁堆積物、砂丘堆積物に覆われている。口之島北東の平瀬(トカラ平瀬)は鮮新世の火山岩だ。